アンソロピック、コンピュート費用の重さ再び IPO目論見書で売上比58%に
米アンソロピックの新規株式公開(IPO)目論見書の修正版で、コンピュート(計算基盤)費用が売上高の58%を占めたことが判明。短期契約への依存で採算がむしろ悪化していることが分かりました。
何が起きたか
米アンソロピック(Anthropic)は11月2日、新規株式公開(IPO)に向けて米証券取引委員会(SEC)に提出していた登録届出書(S-1)の修正版を提出しました。先週提出された当初の届出書は2026年6月30日までの業績しか開示していませんでしたが、修正版では7〜9月期(同年9月30日まで)の数字が追加されています。それによると、同四半期の売上高は170億ドルで、前の四半期の115億ドルから拡大しました。一方で、コンピュート(AIの学習・推論に使う計算基盤)関連費用が売上高に占める比率は58%となり、前の四半期の48%から悪化しました。
なぜ重要か
IPOを控える企業にとって、投資家に示したいのは「売上が伸びるほど採算が改善する」姿です。しかし今回の開示はその逆の動きを示しました。届出書は、比率が上がった理由を追加のコンピュートが投入されたためだと説明しています。同四半期のコンピュート費用には短期契約によるものが50億ドル含まれており、複数年契約で確保した計算資源より単価が大幅に高いといいます。TechCrunchは、需要の伸びが速く、アンソロピックが計算資源の確保に追われた結果だとみています。届出書はコンピュート・インフラ費用について、今後も絶対額で増加し「当面は最大の運営費目であり続ける」としており、採算の改善は一時的な遅れにとどまる可能性もあります。それでも、急成長するAI企業が計算基盤の確保にどれだけ振り回されているかを具体的な数字で示した点に意味があります。
背景
TechCrunchによると、アンソロピックはスペースX(SpaceX)に月12.5億ドルを支払って計算資源を確保しているほか、Nscale、Akamai、Voltaとも10億ドルを超える規模の契約を結んでいます。届出書では、スペースXの完全子会社「SpaceXAI」(旧X.AI)とNVIDIA製GPUによる計算資源を使う契約を2026年5月から10月にかけて複数回結び、2029年までの期間で最大1205億ドルを支払う取り決めになっているとしています。TechCrunchはこうした事業者を、大手クラウド事業者(ハイパースケーラー)に比べて単価は高いものの柔軟に調達できる「ネオクラウド(neocloud)」と呼んでいます。アンソロピックはコンピュートを自社で確保する取り組みも進めており、チップを直接リースし、自社向けに運営される専用施設に設置する「Anthropic Direct」と呼ぶ仕組みが、長期的な経済上の優位につながるとしています。ただしTechCrunchは、需要の伸びが速く、この取り組みだけでは当面追いつかないとみています。
論点
届出書に添えられた図表では、コンピュートに1ドル費やすごとに生まれる売上高の推移が示されています。TechCrunchによると、この比率は2025年初めから上昇を続け、ある四半期で2倍を超えた後、直近の四半期では1.72倍まで下がりました。アンソロピックの売上は四半期ごとに5割近く伸びているため、成長が続く限り投資家はコンピュート費用の重さを過度に懸念しないとみられますが、需要が落ち着いた場合にこの比率の悪化がどう評価されるかは不透明です。TechCrunchは、データセンターの建設が債券市場の変化や地元の反対運動などで滞れば、コンピュートの確保がさらに難しくなり、採算への影響も大きくなりかねないと指摘しています。
日本のビジネスへの示唆
- 生成AIサービスの採算は、コンピュート確保の契約形態(短期か複数年か)に大きく左右されることが明らかになりました。Claudeなど海外AI大手のサービスを業務で使う日本企業は、提供元の計算基盤調達の動向が将来の価格やサービス継続性に影響しうる点を注視したいところです。
- IPOを控える企業が採算指標(コンピュート費用比率など)を四半期単位で細かく開示する姿勢は、海外投資家向けに財務情報を説明する際の参考になりそうです。
- データセンターや電力インフラの拡大が滞れば、AI企業のコンピュート調達はさらに不安定になるとみられます。AIサービスを前提に事業計画を立てる日本企業は、供給制約のリスクを想定し、複数のベンダーや代替手段を確保しておく価値があります。
出典
- Form S-1/A — Anthropic, PBC(米証券取引委員会 EDGAR)
- Anthropic is still grappling with the economics of compute — TechCrunch