イスラエルのAI企業42AI、6250万ドル調達でステルス脱却 人の行動を予測する「世界モデル」
イスラエルのAIスタートアップ42AIが6250万ドルのシード資金調達とともにステルスを脱却。人間の行動を確率的に予測する「世界モデル」を金融仲介業者向けに提供しており、資金の一部は創業者自身によるものだ。
何が起きたか
イスラエルのAIスタートアップ、42AI(フォーティーツーエーアイ)が、総額6250万ドルのシード資金を3年間かけて調達し、ステルス状態から脱却したと発表しました。資金は創業者自身と、42AIの会長兼共同創業者であるAmir Gal-Or氏が設立したInfinity Groupが出しており、完全な外部投資家からの調達ではありません。CEO兼共同創業者はAmit Gal-Or氏で、Amir氏はその父です。CTO兼共同創業者はEhud Ezra氏です。同社は人間の行動を予測する「行動ワールドモデル(behavioral world model)」を開発しています。
なぜ重要か
ワールドモデルとは、AIが環境や他者の反応を内部で模擬し、次に起こりうる展開を予測する仕組みです。42AIのモデルは個人の心理特性をデータ化し、未知の状況でも意思決定の確率分布を予測する点が特徴です。Gal-Or氏は「行動は決定論的でなく、常に確率的だ」と説明し、Ezra氏は「世界モデルでは、すべての個人が世界だ」と語っています。同社はすでに大手金融仲介業者(ブローカー)10社に提供し、個人投資家の取引行動の予測が流動性や証拠金所要額、ヘッジ対象の管理に使われています。ある仲介業者は動的ヘッジで約3000万ドル相当の追加価値を得たといい、取引が予測範囲に収まるかどうかの精度は98%、取引の方向や出来高を予測するF1スコアは0.8〜0.85とされています。
背景
42AIは3年間、心理学・神経科学・遺伝学の知見を組み合わせてモデルを開発してきました。心理学やPTSDの専門家に加え、2011年ノーベル化学賞受賞者のダン・シェヒトマン(Dan Shechtman)氏の助言も受けたとしています。学習データは数千人規模の心理評価・行動シナリオ研究に、200万人超を対象とする政府やバイオバンクのデータセットを加えて構築し、現在は顧客企業のデータを通じて3000万人近くに拡大しているといいます。売上は7桁ドル(100万ドル以上)を超える規模だとしており、金額は明かしていません。金融以外では、ゲームや不正防止、サイバーセキュリティへの応用を探っているとしています。なお出典記事は、ブローカーが顧客の行動予測を自社に有利な形で使うことを何が防ぐのかという論点を提起しています。Ezra氏は「妥当な懸念だ」と認め、創業者らは規制・監視・社内の倫理委員会を挙げたものの、顧客企業が予測の対象である人々に対して優位に立つことを防ぐ具体的な仕組みの説明はなかったと報じています。
日本のビジネスへの示唆
- 金融分野で実績を積んだ行動予測モデルは、ゲームや不正防止、サイバーセキュリティなど他分野への応用も探られており、自社の顧客理解にどう生かせるか検討に値します。
- 顧客の行動を予測する技術は便益が大きい一方、企業側が顧客に不当に優位に立つ使われ方もあり得るため、利用目的の透明性やガバナンス体制を事前に整えることが重要になりそうです。
- 心理学・神経科学の専門家の助言を取り込みながらモデルを開発する体制は、AIの信頼性を高める一つの方法として注視したい事例です。