Google DeepMind、AlphaProof Nexusで数学の未解決問題を多数解決
Google DeepMindの証明AI「AlphaProof Nexus」が、56年間未解決だった2問を含むErdős問題9問など数学の未解決問題を解決し、査読を経てScienceに掲載された。査読なしで証明を公開するOpenAIへの批判が高まるなかの発表。
何が起きたか
Google DeepMindは、数学の未解決問題を自律的に解くシステム「AlphaProof Nexus」の成果を、科学誌Science(2026年10月8日付)に発表しました。同システムは、未解決の「Erdős問題」353問に挑み、そのうち9問を解決しました。このうち2問は56年間誰も解けていませんでした。「Erdős問題」とは、数学者ポール・エルデシュ(Paul Erdős)が生前に提起した未解決問題の集まりを指します。研究チームは論文の公開に先立ち、解答をオンラインで共有していたといいます。AlphaProof Nexusはほかにも、整数列のデータベース「OEIS(整数列オンライン百科事典)」に載る予想44件を証明し、代数幾何学の未解決問題を1件解決、一部のAIモデルの訓練にも使われる「ミニマックス最適化」という手法の既知の限界値を更新しました。
なぜ重要か
AlphaProof Nexusは、対話型AIモデル「Gemini 3.1 Pro」を土台に、証明を記述・検証できる形式言語「Lean」で証明の下書きと修正を重ねる仕組みです。Leanは編集のたびに下書きを検証し、エラーがあれば次の試行の手がかりになります。特に難しい部分問題には、専用の証明ツール「AlphaProof」を呼び出せます。Google DeepMindによれば、AlphaProofを使わない状態でも9件のErdős問題を解けたといいます。人間の数学者でも長年手こずった問題を、AIが自律的に、しかも複数の分野にわたって解けることを示した点が重要です。数学の証明は、答えが正しいかどうかを形式言語で機械的に検証できるため、AIの実力をごまかしなく測れる分野の一つとされています。その意味で、Erdős問題のように専門家が長年挑んできた問題をAIが解いたという結果は、AIの推論能力を測る指標としても注目されます。
背景
今回の発表は、AIが生成した数学の証明の扱いをめぐる議論が過熱するなかで出てきました。OpenAIは10月6日、数百件のAI生成証明を学術誌に投稿せずGitHub上に公開しました。これに対し、数学者らの団体「Association for Human Mathematics」が翌7日に声明を出しました。声明はOpenAIとの協力をやめるよう数学者に呼びかけるもので、Terence Tao氏のブログに寄稿として掲載されています。Google DeepMindは対照的に、AlphaProof Nexusの成果を査読を経たうえでScienceに発表しています。
論点
今回のケースは、AIが生成した数学の証明をどう扱うべきかという論点を浮かび上がらせました。形式言語Leanによる検証を経ているとはいえ、査読を終える前に解答をオンラインで公開した点は、OpenAIのケースとも重なります。一方で、Google DeepMindは最終的に査読を経てScienceに論文を発表しており、AI生成の証明を査読というプロセスに乗せるかどうかで、両社の対応は分かれた形です。AIによる数学研究が加速するなか、速報性と査読による検証のどちらを優先するかは、学術コミュニティにとって今後も論点になりそうです。
日本のビジネスへの示唆
- 数学的な証明や最適化のように、厳密な正しさの検証が必要な領域でも、AIが自律的に成果を出し始めています。研究開発や品質保証の工程でAIをどう位置づけるか、早めに検討する価値があります。
- AI生成の成果物を査読や検証を経ずに公開するか、第三者の検証を経てから発表するかは、信頼性を左右する選択になります。社内でAIの出力を利用する際も、検証プロセスの有無を明示する運用を検討したいところです。
- 「ミニマックス最適化」のようにAIモデルの訓練そのものに関わる手法の改善は、将来的にモデルの性能や学習コストに影響する可能性があります。AI研究の基盤技術の動向として注視したいテーマです。
出典
- Advancing mathematics research with AI-driven formal proof search — Science
- Introducing AlphaProof Nexus: An AI tool for formal mathematical proof discovery — EurekAlert
- AHM Statement on OpenAI's October 6 Release of Mathematical Documents — Terence Tao's blog
- Google Deepmind's AlphaProof Nexus solved dozens of open math problems and actually got peer reviewed — The Decoder